膣内乳酸菌

膣内の乳酸菌の減少とIVFの成功確率(着床率、早期流産など)との関係は、以前より報告がされていました(Infect Dis Obstet Gynecol 2003; 11: 11-7、BMJ 1999; 319: 220-3, Hum Reprod 2013; 28: 1809-15)。しかし、膣内の乳酸菌の減少が、なぜ妊娠に影響を与えるかは不明で、炎症反応が子宮内に波及したのではないかと推測されていました。

子宮内乳酸菌

教科書的には、子宮内は無菌またはそれに近い状態と言われてきましたが、遺伝子検査技術(16SリボソームRAN遺伝子)の向上により、実際には膣内同様に、乳酸菌がドミナントな環境(定義:子宮内腔液の遺伝子解析で、乳酸菌率が90%以上の状態を、「乳酸菌ドミナント(LD)」と呼び、それ以下の場合は、「乳酸菌非ドミナント(NLD)」と呼ぶ)であることが、最近の国内外の論文で報告されています。
また、子宮内乳酸菌環境と膣内乳酸菌環境は、密接に相関していることも示されています。すなわち、大部分の女性において、膣内環境がドミナントの場合には、子宮内もドミナントとなり、膣内環境が非ドミナントの場合には、子宮内も非ドミナント状態となります。

最近の主な論文を、以下に示します。

  1. Evidence that the endometrial microbiota has an effect on implantation success or failure (Am J Obstet Gynecol. 2016;215:684)
  2. Endometrial microbiota-new player in town. (Fertil Steril. 2017;108:32)
  3. Role of Lactobacilli and Lactoferrin in the Mucosal Cervicovaginal Defense
  4. Analysis of endometrial microbiota by 16S ribosomal RNA gene sequencing among infertile patients: a single-center pilot study (Reprod Med Biol. 2018;17:297.)

乳酸菌ドミナント(=>90%)とIVF成功確率:白人


(Source: Am J Obstet Gynecol. 2016;215:684)

子宮内及び膣内乳酸菌の割合:日本人

子宮内と膣内乳酸菌の割合
(Modified from: Reprod Med Biol. 2018; 17:297)

乳酸菌減少と不妊症の関係(推測)

乳酸菌の減少と不妊症が、なぜ相関しているのかは現在不明です。以下に推測を述べます。
乳酸菌は、主に膣内pHを低下させることより、外来微生物から膣内、そして子宮内を保護しています。事実、low pH (4.0)はウイルス不活化として有効で、乳酸菌がドミナントであることは、健全な膣内、子宮内環境が担保された、妊娠に適した安全な環境と考えられます。このレベルのpHを達成するためには、粘膜上皮細胞が乳酸菌で覆われ、ドミナントな状態でなければならないのかもしれません。
一方、胚(受精卵)は非自己のため、免疫学的な拒絶反応を抑制する必要があります(免疫寛容状態)。乳酸菌が免疫寛容を誘導するとのエビデンスは報告されていません。しかし、上述したように、乳酸菌がドミナントの場合には、(なんらかの理由で)免疫寛容となり、その一方で、外来微生物に対してはlow pHのため、「不寛容な環境」となります。その結果、母体にとっては、妊娠に適した期間とみなされるのかもしれません。反対、乳酸菌不足の場合には、感染リスクありみなされ、妊娠しにくくなるのかもしれません。今後の研究が待たれる分野です。