腸内環境

欧州は酪農が盛んで、乳酸菌を含んだ様々な乳製品を用いた治療の長い歴史と伝統あります。最初に注目を集めたのは腸内環境で、戦後より乳酸菌(プロバイオティクス)が積極的に臨床で使用されてきました。特にIBD(炎症性腸疾患)に対しては、日本を含めた世界中の臨床ガイドラインにて、乳酸菌の使用が推奨されています。

膣内環境

その後、膣内にも乳酸菌フローラが存在し、膣内環境の恒常性確保において、重要な役割を果たしていることが示されました。当初、膣内乳酸菌不足に対して、乳酸菌を含んだヨーグルトを膣内に投与することが検討され、一定の効果が得られました(Acta Obstet Gynecol Scand. 1993 Jan;72(1):17)。しかし、ヨーグルトには、不純物や嫌気性菌の栄養となる糖が含まれており、副作用が懸念されました。そのため、安全性が高く、膣上皮細胞への接着性がより高い乳酸菌製品の開発が望まれました。その結果として、女性用乳酸菌が開発され、2000年初頭より、日常生活及び一般臨床で、女性用乳酸菌が欧米で使用されるようになりました。

現在、ドイツ産婦人科学会は、細菌性膣炎に対して乳酸菌の使用を推奨しています(Geburtshilfe Frauenheilkd. 2014; 74(1):51–54)。また、米国産婦人科学会雑誌の総説論文でも、乳酸菌の使用根拠は「強い」と結論づけられています(Am J Obstet Gynecol. 2003; 189:1202-8)。このような海外の状況とは対照的に、女性用乳酸菌はその存在を含めて、国内では殆ど知られていません。

子宮内環境

2016年、最新の遺伝子スクリーニング法を用いて、これまで無菌と考えられていた子宮内にも乳酸菌フローラが存在し、乳酸菌ドミナントの状態がIVFの成功確率と統計学的に相関しているとの報告が発表されました(Am J Obstet Gynecol. 2016; 215:684)。それ以降、関連する研究が国内外で報告され(Reprod Med Biol. 2018;17:297)、現在では、子宮内に乳酸菌フローラが存在することが確立されつつあります。子宮内乳酸菌に関しては、今後、知見が大幅に増加し、発展する分野と考えられています。

乳酸菌の臨床応用の歴史